地方交付税の経済学―理論・実証に基づく改革

地方交付税の経済学―理論・実証に基づく改革の詳細

副題に「理論・実証に基づく…」とあるが、その中心となっている実証分析は、林正義氏の2005年度経済政策学会賞受賞論文「地方交付税の経済分析−現状と課題」（「経済政策ジャーナル」2006年2号（5月）に掲載）で、その実証性が否定されていると思う（15−16ページ）。また、これとは別に、月刊「地方財務」2006年8月号には、より具体的な観点でこの分析の実証性を検証（否定）する論文も掲載されている（「一面的な交付税論議と…」）。…つまり、議論の余地がまったくないとは言えないとは思うが……。また、この本には、交付税制度の無知に基づく誤解もあると思う。例えば11−12ページで、交付税の過剰な財政平準化機能によって「交付税は貧しい自治体を豊かな自治体以上に豊かにしている」「交付税は地方圏をむしろ大都市圏よりも豊かにしている」とあるが、大都市圏府県の人口一人当たり交付税＋地方税が低いのは、府県の事務の多くが政令市に移管され、府県の負担が小さいことなどが反映されているために過ぎない（例えば、横浜市と川崎市という２つの政令市の人口合計は、神奈川県の人口の半分を超えている）。この本は、出発点から、交付税制度のレベル、言い換えれば、旧自治官僚のレベルをすんごく過小評価していると思う。